【追悼】鎌田順也インタビュー「繊細に裏切って」――『Didion』03(特集:演劇は面白い)より
『Didion』03(特集:演劇は面白い)でロングインタビューを掲載しました劇作家・演出家の鎌田順也さんが、7月27日に虚血性心不全でお亡くなりになりました。38歳でした。
同インタビューで聞き手と構成を務めました碇雪恵さんから訃報を知らされて以来、日に日に喪失感は大きくなるばかりです。
現代の小劇場演劇には「笑い」や「面白い」が足らない。いや、劇場には「笑い」や「面白い」が溢れているのに、それをすくいあげる言葉が追いついていないのではないか――という想いが、「演劇は面白い」という特集につながりました(その後コロナ禍を経て、また状況は変わりつつあります)。
と同時に、「笑い」や「面白い」はその場かぎりの舞台で消えてしまうからこそいいのだ、という考えももたげます。それでも野暮を承知で、「演劇は面白い」と改めてクチにしてみたかった。
私にとって、なによりもまずナカゴーでした。鎌田さんが生み出す演劇作品でした。私自身、かならずしもナカゴーやほりぶんのよい観客というわけではありませんでしたが、訃報に触れた多くの方がコメントされているとおり、他に替えのきかない唯一無二の才能であることはずっと昔からあきらかでした。
しかし当時、不自然なほど鎌田さんが自作や演劇を語るインタビューがありませんでした。もしかしたら取材的なものをあまり好まないのかもしれない、という可能性もよぎりましたが、ナカゴーやほりぶんの熱心なファンである碇さんに鎌田さんへのインタビュー取材をお願いしてみました。取材嫌いなどまったくの杞憂であったことは、掲載された記事を読めば一目瞭然だと思います。おまけにその後、碇さんは、鎌田さんの新作公演のたびにインタビューを行うようになりました。
また、鎌田さんは、毎年、春秋の2回開催される「文学フリマ東京」にて、私がエランド・プレスのブースで『Didion』を手売りしていると、毎回かならず挨拶にきてくださりました。「おかげさまで『Didion』、売れてます」なんて短い言葉を返すだけでしたが、鎌田さんが毎回、文学フリマに来場されるのも意外でしたし、広い会場で汗だくになりがらわざわざブースを探し出して来てくださることに、たんなる律儀さにとどまらぬ、摩訶不思議すら覚えていたほどでした。
でも、もう会えません。
もっと話を聞いておくべきでした。
鎌田作品が多くの方の記憶をとらえて離さないことは間違いないでしょう。それでもなお、鎌田さんの言葉をもっともっと残しておくべきだったのではないかと。もはや、それがかなわないのです。
長くなってしまいました。
碇さんから、『Didion』のインタビューを期間限定で公開できないだろうかとの提案をもらいました。鎌田さんのご関係者にも確認しましたところ、ぜひとのこと。
以下に、2019年9月に行われた鎌田順也インタビューを転載いたします。ぜひ多くの方に読まれてほしいと思います。
そして末尾ながら、鎌田順也さんのご冥福をお祈りします。
『Didion』編集長
九龍ジョー
鎌田順也(ナカゴー)インタビュー
「繊細に裏切って」
取材・文=碇雪恵
お茶のペットボトルを3本カゴに入れながら、「待てよ、ここはお酒か?」とよぎる。というのも、これから会うナカゴー主宰・鎌田順也さんのプロフィールに「好きなこと:酒/嫌いなこと:酒以外かな」とあったからなのだけど、初対面でさすがにそれは失礼かもしれないし、せっかく受けてくれたインタビューなのにしょっぱなでいきなり外したら……。と、ここは無難にお茶を入れたままレジへと向かった。
誰かにインタビューをしにいく前にはその人のことを予習していくものだけど、過去のインタビュー記事などはあまり見当たらない。シンプルなつくりの公式サイトで唯一鎌田さんの個人的な情報として見つかったのが、酒のことだった。
3本のお茶を入れた袋をぶら下げ、ナカゴーが普段稽古に使っているという、東京都北区の田端ふれあい館に向かった。
鎌田さんの待つ部屋の扉を開ける前に、ここに至るまでの話をしておきたい。
ナカゴーの鎌田さんに話を聞いてみたい。そう思ったはいいが、依頼をするのには勇気がいった。先に書いたとおり、インタビューをあまり見かけないので、取材は断られるかもしれない。加えて劇場で見かける鎌田さんはいつもだいたい無表情なので、なにを考え、感じている方なのかが見えにくいこともあり、ますます緊張した。
できるだけ丁寧に、失礼のないようにと注意しつつメールを送信、数時間後知らない番号から着信があったので出たところ、鎌田さんからだった。
話すのが得意ではないので不安であるということと、都合のつく劇団員をひとり付き添いに連れていくかも、ということを前提にしつつ取材を受けてくれるという。恐縮して、電話なのに頭を下げてしまった。その後、メールのやりとりで、質問内容といままでにみた演目を事前に共有した。
ちなみに、わたしがはじめて観たナカゴーの作品は、2014年に再演された『ベネディクトたち』だ。
きっかけは忘れてしまったけど、歌人の枡野浩一さんのツイートか、「テレビブロス」の演劇コーナーだったんじゃないかと思う。3331 Arts Chiyoda の小さな部屋で催された舞台の内容は、人々を次々に魅了するベネディクトというパンツ一丁の超人が、平穏な町の日常をひっかきまわす話、と書いても伝わらないだろうが、とにかくそんな感じの内容で、荒唐無稽なお語を大まじめに演じる役者さんたちに、「この人たち笑わないでいられるのすごすぎ」と謎の感動を覚えつつむちゃくちゃ笑ったし、だけど得体が知れなすぎてこわくもあった。
それ以降、鎌田さんのつくる演劇を10作以上観てきたのだけど、じつを言うとそれぞれの作品の詳しいあらすじをほとんど覚えていない。
鎌田さんのつくる舞台はいつも幻のようなのだ。劇場にいるあいだは夢中で観ているのに、その場をあとにするときには魔法が解けたように、笑いすぎたあとの気だるさだけが残っている。その幻をもう一度目にしようと、可能なかぎり足を運ぶのだ。
幻みたいな舞台をなんとか思い出しながら、わたしの思うナカゴーの魅力を挙げてみる。
- 大の大人たち(30代前半~半ば)が、つばを飛ばす勢いで大声を出したり、つかみあったり、机の上に乗ったりするという、ほかにはないくらい原始的な動きが見られるところ。
- 疲れるほど笑わってしまうのと同時に、なぜかブラックホールを覗いているような底知れない闇を感じるところ。
- 家族をテーマにした演目が多いが、そこに超能力的な話が加わることで流れがSF的になり、そのおかげかウェットさがほぼないところ。
- そのあとの展開を演者が台詞で説明してしまう、いわゆる「ネタバレ」をしまくるところ。
- 会場が大きすぎないところ。
意を決して、引き戸を開ける。
鎌田さんの隣に、劇団員の鈴木潤子さんもいる。ふたりの目の前の机には、お茶のペットボトルとお菓子が準備されていた。鎌田さんは「ちょっと涼しすぎますね」と、自らエアコンを調節しに動いてくれた。
迎え入れてくれる姿勢を感じ、わたしの緊張もすこし和らぐ。
取材を承諾してくれたことへの感謝を伝えると、鎌田さんが言った。
「いや、人には会いたいんですよ。ふだん机にしか向かってないし、友達もいないし。おととい鈴木さんを呼んで、マリオカートしたぐらいで……」
個人的なことを話してくれてほっとしたところで、質問を始めた。
■「ファンって何人だと思います?」
――わたしを含め、周りにはたくさんのナカゴーファンがいます。活動期間も長いのに鎌田さんの情報があまりないので、取材が嫌いなのかと思っていました。
鎌田 そんなことはないです。でも、ファンって何人いると思いますか?
――え、人数ですか(いきなりで面食らう)。……わからないですけど、公演はいつも満席ですよね。だから……(頭のなかで計算しながら)少なくとも動員している人数が1000人だとして、それくらいはファンがいると思います。
鎌田 ひとつの公演の動員だと、1000人を切るくらいなんですよ。「いつも3000人くらい来てるよね」って言われたりするけど、そんなにいるわけなくて……。だからファンということだと、30人くらいですよ(キッパリ)。
――そんなに少なくはないです! 「ファン」の定義にもよるとは思いますが……。
鎌田 なんか、人に思われているのと、実際のぼくらにはギャップがあるのかなって。
――いや、そんな。では今日は、そのギャップを少しでも埋められたらうれしいです。まずナカゴーの結成から伺いたくて、ネットの記事を見ていると2004年説と2006年説があるのですが……。
鎌田 2004年っていうのはウソで……ウソって言うとアレだけど、それは文化学院1の学園祭で演し物をやったのをカウントした場合ですね。劇場を借りてちゃんと旗揚げしたのは、2006年です。(しばらくの無言)……13年間か、よく続いたな。そんなに続けるつもりじゃなかったから。だから劇団名の「ナカゴー」も、家の近所の家具屋さんの名前からとっただけだし。
――そうなんですね。わたしは2014年以降に観始めたので、初期の作品を知らず申し訳ないのですが、作風は変わりました?
鎌田 時期によってだいぶ違いますね。いまはよく叫んだりしてるけど、最初は立ち話みたいにぼそぼそしゃべるっていう現代口語演劇みたいなのをやってて。そのころ観ていた人たちからはおとなしい劇団だと思われてます。そもそも文化学院にいるときは、ぼくも鈴木潤子も高畑遊も裏方だったし、基本的にはみんなおとなしいんですよ。あと2012〜14年くらいまでは下ネタがすごかったんで、そのころ観ていた人たちからは下ネタの劇団だと思われてます。
――いまの叫ぶ作風にたどりつくのには、なにかきっかけがあったんですか?
鎌田 『ベネディクトたち』っていう演目の初演が2010年なんですけど、そのころ篠原(正明)くんが劇団員になってくれて、そこから……たぶん。でも、最初にぼそぼそとやってたとき、なんか「リアルですね」みたいに感心する人が出てきちゃって。それだと恥ずかしいんで(笑)、もっと人が感心しないことをやろうと。ぼくは大きい声でやる演劇が面白いっていうのを信じてない人だったんで、「信じていないことをやろう」みたいなことで始めたのが、叫んだりするいまのやり方なんです。それが長いこと続いちゃってるっていう。いまは少し戻そうとしてるんだけど、声を小さくすると今度は「おとなしい」って言われたりして……。
鈴木 あ、すいません、さっきのファンの話でいま調べてたんですけど、ナカゴーのDMを送ってる人数が700人くらいでした。
鎌田 そんなにいるんだ。いまはだいたいチケットが2500円とかなんですけど、3000円にしてもみんな来てくれますかね。
――行きます(断言)。
鎌田 来ないですよ……。
――いつもチケットが安くて申し訳ないと思っているので、物販で買い足したいんですけど、そもそも物販をやられないですよね。
鎌田 ぼくがきらいなんですよ、物販。お客さんに余計なお金つかわせたくなくて。そもそも完成台本がないっていうのもあるんだけど。仕事とかで「これまでの作品の台本ください」って言われることが増えてきて、いいかげんちゃんとしないとって思って、今年の5月にやったほりぶん2の『飛鳥山』ではじめて台本売りました。たいしたことじゃないんですけど、自分のなかではけっこう大きいことだったっていうか。
――商売っ気のなさも、ミステリアスさに拍車をかけてて、魅力のひとつだなとは思っていました。
鎌田 いいかげんちゃんとしないと……。ずっとバタバタしてて、手が回らなかったから……ただそれだけです。
――今年は上半期に3本公演がありましたしね。いまは少し落ち着きましたか。
鎌田 はい、だからちょっと、いろいろ振り返ったりしてますね。公演もちょっと減らしたいなとか思ってるし。
■「修行みたいな感じだった」
――公演がしばらくないかわりに、NHKのドラマ3の脚本を手掛けられるとか。
鎌田 そうなんですよ。今日提出したのでたぶんやっと終わったんじゃないかと。けっこう時間がかかりました。たいへんでした。向いていないんじゃないかと思った……。脚本の仕事もいままではお断りしてきてたんですけど、お世話になった方からの紹介だったので……。
――意外と言ったら失礼でしょうが、義理がたいんですね。
鎌田 いや……むしろ、それまで不義理してたっていうか。
――お話を伺っていると、このところいろんな心境の変化があったということなんですかね。鈴木さんはお近くで見ていてなにか感じられますか?
鈴木 うーん、公演がない期間がこんなに長いことは最近あまりなかったので……それでですかね?
鎌田 やー、なんか……最近ふり返ってみて、なんていうんだろう……そもそも修行みたいな感じだったんですよ、ずっと。とにかくこだわっちゃうんで。こだわるだけこだわって、ぼくのなかでは集大成みたいなものができたらもう終わりにしようと思ってたんですけど。最初はあんまり続けるつもりがなかったんですね。やりたいものをできるだけ形にして、そしたら終わりでいいのかなと。5〜6年前からとくにそう思ってました。
――それは「演劇を」ということですか。
鎌田 なんでもですね。でもそういうことに気づいたのは、ホント最近で。だからやめようと思ってたっていうのも、いま初めて話しました(笑)。なにも言わずに、みんなとやってたから。
――みなさんびっくりしますよね……。
鎌田 ファンができないようにやってた、みたいな。だからホント、求道的っていうか、ちょっとでもなにか発明をしたらもうぼくはいいなと思ってました。それで食べていこうとかちゃんと思ってなかったから。でも、いろいろお世話になってきた人もいるし、みんなはわかりやすく売れてくれって言ってくれたりとかして。ドラマの仕事も、そういう流れで。
――いまはやめる気持ちではないということですね。安心しました……。
鎌田 2年前ぐらいからネタバレをちゃんとやりだしたんです。ホントは、ぼくはそこで終わってもよかったなと思ってて。ただ、集大成みたいな感じにはなっていなかったから。これを始めてみて伝わるまでは5年ぐらいかかるかと思っていたけど、やってみたら最初がいちばん反響ありましたね。当日のパンフレットにあらすじを載せたりもしたな。
――『予言者たち』はネタバレMAX4でしたね。
鎌田 ネタバレについてはいちおうあれが最後みたいな気持ちでつくったんで、ネタバレの仕方をいちばん拡大した感じでやろうと。それで「たち」ってつけたっていう。
――ネタバレはそもそもどうやって思いついたんですか?
鎌田 そういえばなんだっけって考えてみたら、そもそもツイッターとかのSNSでお客さんにネタバレをされちゃうんですよ、公演中に。前はいまよりも事前の予約が埋まってなかったから、公演が始まったあとに口コミで存在を知って来てくれるお客さんがけっこういて。なので公演期間の最後のほうに来てるお客さんのほとんどは、肝になる部分をSNSで知っちゃってる状態なので、実際にやったところでこっちが考えてるような反応にはならないんですよ。それで、じゃあもう自分からネタバレしていったほうがいいなと思って。そしたら今度は、「ネタバレする」っていうネタバレをされちゃって……。いたちごっこっていうのか。もうしょうがないですけど、ファンだったらそんなことしないだろうって思う……。ネタバレのよさを考えると、そもそも文章は倒置法と相性がいいって言いますよね。最初に結論を言うほうが、わかりやすくていいっていう。あと、よけいな期待をさせないですむ(笑)。これが起きますって言って、本当に起きるのかっていうところに注目してもらえれば、それ以上のことは起きなくていい。ほかにも、「やっちゃいけないことをやる」みたいなところで、「そもそもやっちゃいけないことってなんだろう」って考えた末にそうなったっていうのもあります。……や、でも、どうなんだろう。ネタバレしたことが本当に起きるからおもしろいのかな……わかんないな(笑)。だったら、ツイッターでネタバレされてても面白いはずですよね。でも、それと劇中でネタバレすることはちがうと思ってて……それがどういう理屈なんだっけっていうと、よくわからない。
――(たしかに、なんであのやり方だと面白いんだろう……?)けど、大きいものの流れに反発しているように見えて、その姿勢が好きなのかもしれないです。
鎌田 いつか全編説明ゼリフのお芝居をやってみたいです。説明ゼリフってよくないこととされてるじゃないですか。だからそれでお話一個できたらすごいなって。説明ゼリフはいまでもちょいちょい
入れてるんですよ。劇中で映画のあらすじ全部説明するとか。『ていで』って舞台でも、東葛スポーツの金山(寿甲)さんにメダルゲームの説明をするだけっていうのをやってもらいました。
――説明ゼリフといえば、予知能力のある人がよく出てきますよね。
鎌田 ああ、それもネタバレっていう考えが先にあって、予知能力のある人が出すっていう。
――ふつうの演劇がきらいですか?
鎌田 いや、きらいではないですよ。これもふつうの演劇のつもりでやってるので……。
――はっ、失礼しました……!! 超能力はネタバレありきということでしたが、あと家族ものを描かれることが多いですよね。それはお好きな作品からの影響ですか?
鎌田 家族モノの映画とか海外ドラマは好きですね。文化学院に入ったのも、山田洋次監督のシナリオゼミがあるって知ったのがきっかけで。海外ドラマだと『フルハウス』とかのシットコムが好きで、日本のものでも『渡る世間は鬼ばかり』が好きです。でも、人生でいちばん観てるのは『酔拳2』ですね。親子愛、師弟愛、友情……なんでも詰まってて。アクションもすごいし。
――そう言われると、ナカゴーのエッセンスを感じますね。
鎌田 おこがましいですけど、いつか超えられるように………。最初に観たのは小学生のときですね。人生で唯一、3回劇場に行きました。いまでも毎年観てるから、20~30回は観てるのか(笑)。
■「サンバダンサーが好きなんです」
――俳優はどんな基準で選ばれてますか?
鎌田 基準はひとつじゃないんですけど、たとえば……あ、でもぼく、面白い人がいたら、役者やればいいのにって思っちゃうんですよね。こないだもドラマの打ち合わせで会ったプロデューサーの人柄がすごく面白かったから、出たらいいのにと思って。
――声をかけたりするんですか?
鎌田 台本を1回、そのプロデューサーさんでアテ書ききして提出しました。ボツになりましたけど。
――一度、書いてみるんですね!
鎌田 そうですね。基本的に台本はぜんぶアテ書きなんで。あと俳優さんのことで最近すごくよく思うのは、いま一緒にやってくれてる人以外で、一緒にやりたい人たちがそんなにいないですね。オーディションとかも前はやってたけど、いまはもういいかなって5。あとは、(一緒にやるのは)まじめでメンタルの強い人がいい。って考えると、もちろん人にもよるんですけど、女の人のほうがまじめで、ハートの強いことが多いと思ってて。ほりぶんも女性だけだし。
――ナカゴーも俳優さんは篠原さん以外、女性ですね。
鎌田 男の人のほうが、ってほんと人にもよるんですけど、恥ずかしがっちゃうとかかっこつけちゃうことが多い……って思ってるんです。
――篠原さんはかっこつけないですか?
鎌田 かっこつけ……て、る。かっこつけてる。男の人のほうが言い訳がましいことが多いですね。そうじゃない人もいっぱいいますけど。たとえば金山さんとか、ぼくすごい好きで。もっといろいろ出てるのをみたいなって思います。
――金山さんのべらんめえ口調、かっこいいですよね。あと『飛鳥山』では、ほりぶんには珍しく男性の俳優さんで、黒田大輔さんが出演されていましたね。『飛鳥山』はほんとうに笑い死ぬかと思いました。ブラジル人のサンバダンサーまで出てくるし……なんか派手でしたね。
鎌田 会場が大きかったんで、ああいう感じになりました。いままでは大きい会場でやるのにも興味がなかったんですけど、たまたまそういうお話をいただいて。ぼくサンバダンサーが好きなんですよ。日本人とかと比べると、体格的に違いすぎて笑っちゃうっていうか。群馬県の大泉町っていうブラジル人がたくさん住んでるところがあってそこでサンバやってたりするんで、年に何回か車で遊びに行くくらい好きで。ただ、今回、お客さんが笑って足をドンドンしちゃったりして……加減するのが難しい。そもそも笑いって必要なんだっけ、とかも考えました。例えばハイバイの『夫婦』って、笑いがほとんどないけど胸に残る舞台ですよね。……あ、そうだ、あと、空調。大きい会場だと空調が難しい。
――空調ですか(そういえば、部屋に入ったときも空調を気にしてくれていたと思い出す)。
鎌田 自分の体感温度で物言ってると思われちゃうから、ぼく暑がりなんで。そういうわけじゃないんだ!ってことをけっこう強く何回も訴えてますね。
――どこにですか?
鎌田 関係者に(笑)。
――次回は空調も気にしてみます(笑)。しばらく公演がないということでしたが、次はいつ頃になりそうですか?
鎌田 来年のゴールデンウィークに本公演をやるのが決まってて。本公演の準備はだいたい1年かかっちゃうんで、いまその準備をしてます。そのときにやるかはわからないけど、ナカゴーのグループLINEで「西遊記やりたい」っていう意見があったな。これまでは意見を求めても返ってこないことが多かったんですけど、ふたりくらいからそういう声があって。最近、ミュージカルの『CATS』が実写で映画化されるって聞いて、予告編観たんですよ。それがぼく、びっくりして。キャッツ、ねこ……ようするに猫人間なんですよ。それが衝撃的すぎて、その予告編をグループLINEに送ったら西遊記の話になって。みんなそう思ってるんだったらやろうかな、って。
――ナカゴーの西遊記、ぜひ観てみたいです!
ここでレコーダーを止め、写真を数枚撮ってから片づけをしていたところ、「このあと、もしなにもなかったら」と食事に誘っていただいた。じつはくだんの酒のことが頭にあり、たくさん飲んでも大丈夫なように翌日の午前中に予定を入れないほどの準備をしていた。ご一緒させてほしい旨を伝えつつ、「お酒が好きだとプロフィールにありましたね」と聞いてみると、
「ぼくお酒ほとんど飲めないんですよ」
公式サイトを裏切る答えが。
演劇でも、やっちゃいけないことをやったり、観客を煙に巻くようなことをやったりするのがおもしろいとは思っていたけど、まさかプロフィールもか……っていうか、コンビニで缶チューハイ買わなくてよかった!
駅に向かう途中のいわゆる町中華に3人で入り、ギョウザとチャーハンと焼きそばとビーフンを1皿ずつ頼んでみんなで分けて食べながら、鎌田さんから「これからのナカゴーってどうしたらいいんでしょうね」と相談のような質問をもらった。意外な問いかけに悩んだ末、「鎌田さんがやりたいこと、やってて気持ちのよいことをやりつづけてほしい」となんの参考にもならない答えをしてしまった。
しかしそれは本心で、いつまでもファンのことを裏切りつづけてほしいし、その姿勢こそに惹かれているんだと、今日改めて思ったのだ。
空調に気を配りながら、チケット代を遠慮しながら、物販さえためらうような繊細さを持ちながら、安易な理解や感動を拒み、「やっちゃいけないこと」を追求しつづける大胆さ。それこそが、わたしが鎌田さんに感じる魅力なのだ。
宣言通り、ビール2杯で酔いがまわったようで、ふらつきながら自転車を押して北区王子の自宅に帰る鎌田さんを、鈴木さんと一緒に見送った。
大きな背中に手を振りながら、これからもこの人に裏切られつづけたいと思った。
(初出:『Didion』03)
*註)
- 2018年に閉校した専修学校。映画や演劇の専門課程があり、数多くの俳優や作家を輩出した。
- 鎌田順也、墨井鯨子、川上友里(はえぎわ)
- 2019年10月にNHK総合でスタートするドラマ『決してマネしないでください。』の脚本を土屋亮一、福田晶平とともに手掛ける。
- 吉本興業の劇場・神保町花月で今年6月に行われた『予言者たち』は、作品の冒頭で、演者が一列に並び、自分の役柄とその人物のたどる展開を最後まで説明するところから始まった。「ネタバレもついにここまでに……」と、そのやけくそみたいな始まり方に妙なすがすがしさを感じた。
- とのことだったが、この18日後に、次回公演に向けたオーディションを開催することをツイッターで告知していた。